往復ご苦労さん
牛田町(宮本)
江戸時代の終わりのころのことです。牛田に坂田松右衛門という庄屋がおりました。
ある朝のことです。庄屋の家の門のまん前に、だれのいたずらかいやがらせか、四十貫(百五十キロ)もある大きな墓石(墓地でお経をあげる時の台に使われていた石)が、でんとおいてありました。近くの泉蔵寺の墓地から、夜の間にこっそり運ばれてきたようです。とても重くて、ふつうの人の二人や三人ではびくともしません。
困った庄屋は、村でもいちばんの力持ちだと評判の、仙太と伊太郎という二人の若者に頼んで、この石をもとの所へもどしてもらいました。そのお礼に、いくらかのお金とお酒一升(一・八リットル)を二人にわたしました。
それからいく日もたたないある朝、また、あの墓石が門の前にどかり。庄屋は、また、仙太と伊太郎に頼み、石を運んでもらいました。そして、お礼にお金とお酒をあげました。
しばらくの間は何事もなく過ぎ、庄屋もやれやれ安心と思っていた矢先、また、例の石が門前にでんとおいてあるではありませんか。仙太と伊太郎は、また庄屋によばれて行きました。大きな石のそばで、庄屋はふきげんな顔をして二人に言いました。
「また、こんないたずらをするやつがいる。すまないがお前たち、もう一度、力をかしてくれ。」
二人は、えっさ、えっさと重い石を汗だくになって、五百メートルほどはなれた墓地まで運んで、もとの所へもどしました。
汗をふきふき、帰ってきた二人に、
「お前たち、重い石を往復運んで、くたぶれたであろう。ごくろうさん。」
と、きびしい顔で庄屋はいいました。二人ははずかしくなって顔を見合わせました。
おしまい
更新日:2023年08月23日