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盗人の恩返し

山町(山)

(イラスト)盗人の恩返し

もうむかしのことになるなあ。
山町にあった土居(まちの入口の木戸)から牛田までは、東海道の松並木も八丁並木といって、三本道が平行に並んでおった。そこにはおとなが四人で抱えても抱えきれない程の太い松が百本以上もあったものよ。だからその陰にかくれて、夜になると旅人をおどして金を取るおいはぎがたびたび出て、みんなを困らせておった。昔はな、働きたくても働く場所がなくて、こじきやおいはぎになってしまう者も多かった。

わしの家はその並木のすぐ近くにあった。小さいころのとても寒い晩だった。戸口の方でガタガタと音がするようなので、少し目をあけて、隣に寝ている兄さんを見ると、やはり目をあけて、耳をすましている。兄さんは、起き上がるとそっと足音をしのばせて戸口の方へ行った。わしも何だろうとついて行った。するとどうだろう。兄さんが戸口から少し出ていた腕を力まかせにつかまえて逃がさないようにしながら、大声でさけんでいた。
「早く出刃包丁を持って来てくれ。こんな手は切ってやる。」
わしは障子の陰でブルブル震えていた。するとおとっつあんが、何か手に持って、走って出て来た。盗人の手が切られてしまうこわさに目をつむった。しかしこわいもの見たさでうす目をあけて、成り行きを見ると、おとっつあんの手にしていたのは出刃ではなく、きんちゃくだった。おとっつあんはその中から金を出してにぎらせ、その手を外へ出して戸をしめてしまった。
「せっかく悪者を捕まえたのに。」
と兄さんはくやしがったが、おとっつあんは、
「よほど困った旅人にちがいない、心が通じてくれるとよいが。」
といって、遠くを見るような目をした。

それから、四、五年過ぎ、その事件もすっかり忘れかけていたある日のことだった。
ひとりの旅人が、
「すみませんが、はばかりを貸してくれませんか。」
と入ってきた。用がすむとていねいにお礼を言って出ていってしまった。すると家の中からおっかさんが、
「便所にこんな反物が置いてあったぞん。」
と目をまるくして、三反の反物をかかえてきた。

不思議なこともあるものだとみんなでさわいでいると、一枚の紙切れが落ちた。それにはただ一行、「いつぞやは助かりました。」と書いてあった。みんなは、あの夜のできごとを思い出し、胸を熱くして、表に走り出た。そして松並木の間に見えかくれしながら遠ざかっていく旅人を見送った。

おしまい

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